2025-03-21
みたまうつしの儀は、人が亡くなったときに神道系で執り行われる重要な儀式です。日本のご葬儀はほとんどが仏式のため、みたまうつしの儀が執り行われる機会はあまり多くはありません。
本記事では、神道における通夜祭の大切な儀式であるみたまうつしの儀について、その詳細や意味、式の流れ、マナーをご紹介いたします。
みたまうつしの儀は、正式には遷霊祭(せんれいさい)と呼ばれ、神社や祭祀を基盤とした神道系の宗教において、亡くなった方を弔うために行われる重要な儀式です。みたまうつしの儀は、神職の奏上によって、霊璽(れいじ)に故人様の御霊を移すために行われます。霊璽は白木で作られており、仏教でいう位牌(いはい)の役割を持っています。
本来、みたまうつしの儀は故人様の死後50日目まで、10日ごとに執り行われていましたが、近年では「通夜祭(つやさい)」の後に続けて行われることが増えました。通夜祭とは、仏教のお通夜にあたるものです。
霊璽は故人様の御霊に入っていただくための依り代であり、仏教の位牌と同様、最も丁寧に扱われます。加えて、神道では故人様が大切にしていた鏡や小物を「御魂代(みたましろ)」と呼び、霊璽の代わりとして御霊の依り代にすることもあります。みたまうつしの儀を行うのは、神社神道(じんじゃしんとう)のほか、金光教(こんこうきょう)、天理教(てんりきょう)、黒住教(くろずみきょう)など教派神道十三派(きょうはしんとうじゅうさんぱ)です。
神社神道と教派神道十三派のいずれも、故人様の御霊を御魂代に移すためにみたまうつしの儀を行いますが、それぞれの宗教で御霊に対する考え方は異なります。
神社神道では、「亡くなった方は神になる」といった概念があり、御霊を霊璽に移した後はご先祖様とともに家の守り神となっていただくための儀式を行います。一方で、天理教などの教派神道十三派では、神様からお借りしていた肉体を返却するため、御霊を霊璽に移し、生まれ変わるまで神様に御霊をお預かりいただくといった目的で行われるのです。
神道にはさまざまな宗教があり、それぞれの考え方でみたまうつしの儀を執り行います。ここからは、代表的な3つの宗教に焦点をあて、概念や考え方の違いなどをご紹介いたします。
神社神道が祀っている神々は、八百万(やおよろず)の神様と呼ばれ、古くから人々のあらゆる生活圏に存在するものと考えられています。例えば人間関係やご縁、悪縁、学問、商売、金銭、自然現象、そしてご先祖様の御霊にいたるまで、全てを司る神様が信仰されているのです。
この考え方は、はるか古代から受け継がれており、現代にいたっても初詣や七五三、地鎮祭、縁日、厄除けなどといった行事として人々の中に溶け込んでいます。
天理教は、日本の宗教家「中山みき」を開祖として、江戸時代終盤の1838年(天保9年)に広まりました。天理教には「人の身体は神様からの借り物」という概念があり、助け合いの精神で、他人の幸せを願いながら生きていく教えを説いています。
現在の本拠地は奈良県天理市で、近辺には天理教の教えを引き継いだ学校や病院が数多く建てられているため、天理市は宗教に重きを置いた都市として知られています。
金光教は、天理教と同様「教派神道十三派」のうちの一派です。江戸時代の終わりの1859年に赤沢文治、後の金光大神(こんこうだいじん)によって広まっていきました。金光教もまた幕末に開かれた宗教であり、1814年に開かれた黒住教、1838年の天理教とともに「幕末三大新宗教」とも呼ばれています。
天地金乃神を主神とする金光教では、「神様と人は持ちつ持たれつの関係である」という教えが根付いています。信者と神との取り次ぎを行うのも特徴で、信者に願いを伝えられた取次者は、その祈りを神のもとへ届けるのです。
みたまうつしの儀は、通夜祭の後に続けて行われるのが一般的です。ここでは、みたまうつしの儀の流れについて、代表的な神道での一例をご紹介します。
①部屋を暗くする
みたまうつしの儀では、夜間を示すため最初に部屋の灯りを暗くします。ただし、会場によってはろうそくなどの暗い光が灯されていることもあるようです。
②斎主(神職)による祓詞奏上(はらえことばそうじょう)を受ける
暗くした会場に、ご親族や参列者が入場し、斎主により祓詞奏上を受けます。祓詞奏上は、参列者の穢れを祓うため、斎主が神様へ祈願する儀式です。
③遷霊詞(せんれいし)、警蹕(けいひつ)
故人様の魂を霊璽に移す「遷霊詞」が唱えられた後、「おー」という声(警蹕)が発せられます。この掛け声の間、参列者は頭を下げて目を閉じましょう。なお、天理教においては、この後に神様へ供物を捧げる献饌(けんせん)が行われます。
④諡号(しごう)
魂が霊璽に移った瞬間、故人様は神となって諡号が贈られます。
⑤玉串奉奠(たまぐしほうてん)
部屋を明るくして、一人ずつ玉串奉奠、二拝二拍手一拝(拍手は無音)、拝礼を行います。玉串奉奠とは、参列者が神前に玉串を捧げ拝礼する儀式で、仏教のご焼香にあたります。
また、文化庁の決定により、2024年2月以降より天理教においての祓詞奏上、玉串奉献は廃止されました。もしご希望がある場合は、会場や神職のお考えによって柔軟に対応いただける場合もあるため、ご不安な場合は事前に確認してみましょう。
【参考資料】
みたまうつしの儀は、お通夜と同日に行われます。ここからは、この儀式に参列するためのマナーをご紹介していきます。
服装はそのまま喪服を着用します。学生においても、制服でお通夜に参列された場合、そのまま着用します。制服がない子どもは無彩色の落ち着いた服を着用しましょう。仏式のご葬儀とは異なり、仏具の数珠を持参するのはマナー違反になります。
不祝儀袋は、無地あるいは黒白か双銀の水引がついているものを選びます。袋に蓮の花が描かれたものは仏教で使用されるものですので用いません。表書き上部には、「御玉串料」「御神前」「御榊料」のいずれかを記載します。
包む金額は、故人様との関係性が深いほど高額になるという考え方が一般的です。以下では、一般的な相場をご紹介いたします。
・両親 50,000~100,000円
・兄弟姉妹 30,000~50,000円
・祖父母 30,000~50,000円
・親戚 10,000円
・親しい知人 10,000円
・ご近所、会社関係の方 3,000~5,000円
みたまうつしの儀は、故人様の御霊を霊璽にお納めする儀式です。宗教の考えによっては、肉体を神にお返しする、または神となって家をお守りいただくなど、さまざまな意味合いを持っています。しかしながら、どの宗教にとっても、みたまうつしの儀が重要なものであることに違いはありません。
現代では、神社や祭祀を基盤とした宗教で故人様を見送るご家庭も増えています。もしそのような場へ参列する機会が訪れたとしても、みたまうつしの儀の意味や目的を理解しておけば、落ち着いた気持ちでお見送りできるのではないでしょうか。
60年の歴史と実績のあるセレモニーのご葬儀専門ディレクターが監修。喪主様、ご葬家様目線、ご会葬者様目線から分かりやすくのご葬儀のマナー知識をお伝えします。