2024-04-12
ご葬儀には、さまざまなマナーやしきたりがあります。中には聞いたこともないような儀式や道具が登場する場合も少なくないため、悩んでしまうこともあるかもしれません。今回、本記事でご紹介するのは、ご葬儀に欠かせないと伝えられる「守り刀」です。
ご葬儀における守り刀にはどういった役割があり、その歴史はどのようなものなのでしょうか。また、守り刀の使用方法などについても解説いたします。
ご葬儀において、故人様の胸元や腹部、棺の上や枕元などに、細長いものを包んだ袋が置いてあるのを見かけたことがある方も多いでしょう。袋の中に入っているのは「守り刀」といい、故人様を送りだすために置かれたもので、さまざまな意味が込められている大切な葬具なのです。
ここからは、守り刀の意味や役割、歴史や一般的な刀の構造などを見ていきましょう。
日本では古来より、人が亡くなった後で守り刀を用意するしきたりがありますが、現代においても各地で同じ光景が見られます。守り刀に与えられた一番の役割は、故人様の旅立ちにおいて、道中にかち合うかもしれない魑魅魍魎 (ちみもうりょう)から故人様の魂を守ることです。
そして、もう一つの目的は、死の穢れを祓うために守り刀が用いられるというものです。死を穢れと捉えるのは神道の考え方に最も近く、「穢れは不浄であるため、祓い清めなければならない」とされています。
守り刀の歴史は、武家社会の風習が発端になっています。武士は、数々の危険から身を守るため、刀を肌身離さず所有していました。また、ご葬儀の際には、ご遺体の横に脇差を置く習慣もあったようです。この風習がやがて町人にも広がっていき、「守り刀は死者を守る、穢れから生きた方を守ってくれる」という考えが根付いていったといわれています。
近年のご葬儀では、ご葬儀用に造られた守り刀や模造刀を使用するのが一般的になりました。なお、昔ながらの本物の刀を使用するとなると、大きさによっては銃刀法に違反する恐れがあるため、刃渡り15㎝未満のものを用意する必要があります。
ご葬儀用の刀、模造刀以外で守り刀を用意する場合は、袋に入った木製の刀・ハサミ・剃刀・小刀が良いでしょう。木製であれば火葬場で一緒に燃やせるため、木製の刀を用意するのがおすすめです。
ご葬儀のしきたりは地方によってさまざまですが、守り刀の置き方についても宗教や地域による違いが見られます。ここでは一般的な方法をご説明しますが、実際は周りの方のご意見に耳を傾けながら行動することをおすすめします。
守り刀は、ケアが施されたご遺体が布団の上に安置された際、葬儀社の方が決められた位置に乗せてくれます。また、ご遺体が棺に納められた際は、棺の上に守り刀が乗せられる形となります。
守り刀を置く位置は地域や宗教によってさまざまですが、胸元か腹の上または枕元に置き、刃先は故人様の顔へ向かないようにするのが一般的です。なお、置き場所に明確な決まりはありません。したがって、守り刀を置くことに慣れている葬儀社の方にお任せしておけば、間違いはないでしょう。
ここからは、宗教や宗派ごとに異なる、守り刀の意味や扱いについてご説明していきます。
仏式では、故人様が亡くなった日から四十九日までの期間を、「中陰(ちゅういん)」と呼んでいます。この期間のご遺族は忌の生活を営み、そして故人様の魂は極楽浄土へ向かう途中に六道をさまようともいわれています。守り刀は、その道中に故人様を守護するためのお守りとして用意されたものと考えられているのです。
なお、浄土真宗のご葬儀において、守り刀が使用されることはありません。なぜならば、浄土真宗の教えでは、全ての故人様は亡くなった直後、仏として極楽浄土に生まれ変わるとされているためです。道中の悪霊などから身を守る必要がないので、守り刀も不要とされています。
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続きを読む神道のご葬儀は、「神葬祭(しんそうさい)」といいます。神葬祭は、地域のしきたりや神職の考えで流れが変わることもありますが、その中で守り刀が用いられるのが一般的です。
神道ではご遺体を北枕で安置し、白い布で顔を覆います。そして、その枕元に守り刀を添えるのです。神道において使用される守り刀には、数々の悪霊から故人様の御霊を守るという気持ちが込められています。
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そもそも、守り刀を使用する風習は仏教と神道にしかありません。つまり、その他宗教のご葬儀で守り刀を使用する概念はないのです。なお、即身成仏(そくしんじょうぶつ)の考えを持つ浄土真宗でも、守り刀は使用されません。
守り刀は、ご葬儀以外にも使用されることがあります。例えば、就寝時に枕元へ置いておく「枕刀(まくらがたな)」は、魔除けの効果を信じて行うものです。その他では、皇室や花嫁に向けて使用される場面もあります。では、その詳しい意味や使用方法を見ていきましょう。
皇室では太古より刀との縁が深く、現代においても重要な儀式に守り刀が取り入れられています。中でも、生まれたばかりの子どもに守り刀が授けられる「賜剣の儀(しけんのぎ)」は、生まれてから最初に行われる重要な儀式とされています。
その内容は、子どもの健やかな成長を願い、天皇陛下から子どもへ、守り刀が下賜されるというものです。なお、この儀式は平成13年、敬宮殿下(としのみやでんか)が誕生された際にも行われました。
その昔、日本では花嫁が嫁ぐ際に守り刀を贈るという風習がありました。これは、一度嫁いだからには元の家には死ぬまで戻らないという強い意志と、夫になる方以外の男性から身を守るためという意味が込められていました。
しかしながら、明治時代の廃刀令、そして戦後の銃砲刀剣類所持等取締法の施行により、このしきたりは風化の一途を辿ることになります。
なお近年では、和装で結婚式を行う場合に限り、守り刀の名残ともいえる道具が使用されています。それは、「懐剣(かいけん)」と呼ばれるものです。懐剣とは護身用の短刀のことで、現代では花嫁の懐中に入れる小道具がそのように呼ばれています。実際は本物の刀を持たせず、固めの台紙を懐剣袋の中に入れ包んだものを帯に差し込む方式が取られています。
守り刀を手に入れたい場合、どのような手続きを行えば良いのでしょうか。ここからは、守り刀の入手法について解説いたします。
ご葬儀を葬儀社へ依頼している場合、守り刀が既にオプションの一部に組み込まれている可能性があります。気になる場合は、担当の方へ確認してみましょう。なお、守り刀がプランにない場合でも、お願いすればお取り寄せしてもらえる場合があります。
好みのデザインや価格で守り刀を手に入れたい場合は、ネット通販を利用する手もあります。さまざまなものの中から選べますが、到着はご葬儀に間に合わせる必要がありますので、配送日を確認しましょう。また、木の板を購入して彫刻刀ややすりを使い、木製の守り刀をご自身で作成するという手もあります。
守り刀は、故人様の霊を守護するためだけのものではなく、参列者の方々も穢れから守るという意味合いを持つ尊ぶべき道具です。ただ刀が乗せられているだけの認識よりも、こうして意味合いに理解を深めることができれば、いっそう落ち着いた気持ちで故人様と向かい合えるのではないでしょうか。
60年の歴史と実績のあるセレモニーのご葬儀専門ディレクターが監修。喪主様、ご葬家様目線、ご会葬者様目線から分かりやすくのご葬儀のマナー知識をお伝えします。
一般的なご葬儀では、故人様のご遺体を納棺するという作業が行われます。通常、ご遺体と一緒にお花や副葬品を入れていきますが、その中で「六文銭(ろくもんせん)」が入った袋を目にしたことはないでしょうか。本記事では、六文銭を入れる意味、納棺する方法などについて解説しますので、興味をお持ちの方はぜひ参考にしてみてください。
ご葬儀を執り行うにあたって、そろえておかなければならない用具は数多くあります。例えば遺影や位牌などです。特に棺桶は、故人様のご遺体を最後まで納める大切な用具となります。
故人様との最後のお別れ。故人様が愛用していたものや、好きだったものをお棺に納める際に、担当者から「それは納められないんです……」と声をかけられている人を見たことがありませんか。 納棺の際に、故人様が生前に大切にしていた思い出の品などを一緒に納めることがあります。その際に納めるもののことを副葬品といいますが、実は、お棺に納められないものがあります。 そこで今回は、副葬品としてお棺に納められるもの、納められないものについてご紹介します。 お棺に納められるもの、納められないもの お棺に納められるもの 副葬品としてお棺に納められるものとしては、火葬した際に燃え残りのないものがよいとされています。また、故人様の手作りの品、思い出の品で残しておくことが辛いものなどは、燃えるものであればお棺に納めて一緒に火葬するのがよいでしょう。 以下に、副葬品としてお棺に納めてよいものの一部をまとめましたので、ご参考にしてください。 手紙・寄せ書き 生前に伝えられなかったことを手紙や寄せ書きに書いて副葬品として入れてあげると、故人様もきっと喜ばれるでしょう。また、手紙や寄せ書きを書くことで自分の気持ちを落ち着かせてお別れをすることができます。 お菓子・果物 生前に伝えられなかったことを手紙や寄せ書きに書いて副葬品として入れてあげると、故人様もきっと喜ばれるでしょう。また、手紙や寄せ書きを書くことで自分の気持ちを落ち着かせてお別れをすることができます。 人形・ぬいぐるみ 故人様が思い入れのあった人形などは副葬品として納めてあげた方がよいかもしれません。ただし、プラスチック製のものは燃えない可能性がありますので、事前に確認をとっておくとよいでしょう。 煙草 生前に故人様が煙草を吸っていた方であれば、煙草を入れることは問題ありません。 洋服・着物 生前に故人様が気に入っていた衣類などは、少ない枚数であれば納めることができます。 お棺に納められないもの 火葬を前提とした場合、燃焼を妨げるものや溶解・爆発などで遺骨や係員を傷付ける危険性があるものはお棺に納めてはいけません。 以下に、一般的にお棺に納められないとされているものの一部をまとめました。 メガネ・入れ歯など 故人様が生前に身に付けていたもの、例えばメガネや入れ歯は金属にあたるため、副葬品としてお棺に納められないことが多いです。また、腕時計や指輪、アクセサリーなども同様です。 缶やビンなどの飲料 ビール缶や酒びんなどは燃えないため、お棺に納めることはできません。 分厚い本・千羽鶴 意外に思われる方も多いと思いますが、ハードカバー付きなどの分厚い本は、燃えにくいため断られることが多いです。また、大量の折り鶴なども同じ理由で断られる場合があります。 お金(硬貨) 硬貨は燃えませんし、現金(硬貨)を燃やすこと自体が違法にあたるため、お棺に納めることはできません(貨幣損傷等取締法)。 お棺に納める際に注意が必要なもの お棺に納める際に注意が必要なものもあります。その一部を以下にまとめました。 ペースメーカー 特に気を付けなければならないのは、故人様の体にペースメーカーがあった場合です。ペースメーカーを入れたまま火葬を行うと、突然爆発する危険性があります。ペースメーカーを装着している場合には、係員への申告を忘れずに行いましょう。 写真 写真自体は副葬品としてお棺に納めても問題ありませんが、ご存命の方が写っているものは避けましょう。ご存命の方の写真を火葬してしまうと、あの世へ引き込まれてしまうという迷信があるからです。 毛布・布団 あまりにも厚みがあると燃えるのに時間がかかり、火葬の時間が長くなってしまうため、断られてしまうことがあります。 お棺に納める際に注意が必要なもの 今回は、「お棺に納められるもの、納められないもの」をご紹介しました。 火葬のことばかりを優先してしまうと、故人様とのお別れが窮屈なものになってしまいます。かといって、思いのままに副葬品をお棺に納めてしまうと、それはそれでトラブルの原因になります。 お棺に納めてよいものかどうか判断に迷った時には、ご葬儀の担当者などに事前に確認をしておくと、滞りなくご出棺が行えるでしょう。