2023-12-08
長生きしたいと考えている方の大多数は、人として尊厳のある生き方をイメージするのではないでしょうか。ご自身の足で歩き、思い通りに行動していく生き方は、健康の礎があってこそ得られるものです。しかしながら、中にはそうではない方もいらっしゃいます。
体の自由がきかなくなってしまった時、一定の方が頭に思い描くのは「尊厳死」や「安楽死」です。そこで当記事では、尊厳死や安楽死についての解説と、日本国内における現状や問題点をご説明していきます。
「尊厳死」とは、これ以上の治癒が難しいと考えられる患者が、自身の意思に基づいて、延命治療を行わず死を迎えることです。
通常なら、生命の維持が難しくなった患者に対して病院側が数々の延命治療を行い、少しでも生きている時間を延ばすために尽力します。どのような状態においても生きていきたい、一分一秒でも長く生きていてほしいと考える方であれば、医師にすべてを任せるのが一番の方法です。
しかしながら、中には治療を拒否して自然な最期を望む方もいます。なぜならば、呼吸や意思疎通がままならない状態を一生続けるのは、辛いと感じる場合が多いためです。自由のきかない体は、本人の持つ人としての尊厳を奪う可能性があるほか、ご家族の精神的苦痛や金銭的負担も大きくなります。
こうして、「延命治療を中止したい」という希望を受けた病院側は、寿命を延ばそうとする積極的な治療行為をやめ、苦痛を和らげるケアに切り替えるのです。こうして、自然な死を迎えることを尊厳死といいます。
尊厳死の是非については、現在もさまざまな場所で議論が進められており、慎重に検討が重ねられています。
尊厳死と似た言葉で「安楽死」があります。尊厳死、安楽死共に延命治療を行わない点においては共通していますが、尊厳死と安楽死は似て非なる行為です。
安楽死は、治癒の見込みがなくなった患者の希望により、主治医が薬物などを用いて死へ至らしめる行為を指します。つまり、自然に訪れる死を待つ尊厳死とは違い、人為的に死を迎えさせることを意味するのです。
なお、現在の日本国内で患者を安楽死させることは、刑法202条の嘱託殺人に当たり、罪に問われてしまうことになります。
リビングウィルとは、今後意思の疎通や判断ができなくなるであろう患者が記す、「尊厳死宣言書(事前指示書または意思表明書)」のことです。英語で「生前の意思」という意味を持っています。
リビングウィルには、主に終末期に患者がどのような治療やケアを希望しているのかが記されているほか、尊厳死希望の有無や、患者本人の代理としてさまざまな判断を行う代理人などが記載されています。
また、リビングウィルは、本人が作成するもののほか、公正証書として作成されるものがあります。いずれにしても、ご家族や医師との話し合いを進めながら、慎重に作成すべき書類であることに間違いはありません。
リビングウィルは、患者本人の意思があればいつでも撤回できますので、病状や環境の変化があった時など、こまめに確認しておくのが良いでしょう。
ここで、尊厳死についてのメリットを確認してみましょう。
①【患者ご本人の身体的・精神的苦痛を終わらせられる】
いつまで続くか分からない辛い治療を、病床の上で耐えなければならない苦痛は計り知れません。尊厳死を決定することで、現在の状況から解放されるという安堵が、患者の負担を和らげます。
②【患者は、人生の終焉を思い通りに決められる】
死を免れるのが不可能ならば、自身の死に方は自分で決めたいという患者の希望が叶えられます。意にそぐわない、生命を引き延ばすだけの延命措置から解放されれば、意思が残っているうちに心残りのない過ごし方ができるかもしれません。
③【ご家族の医療費負担を減らせる】
延命治療に必要な医療費は、時に保険がきかずに大きな負担になることもあり、それらの負担が軽減されます。
④【ご家族の心労を減らせる】
先の見えない延命治療は、患者のストレスだけにとどまらず、ご家族にも大きな心労が掛かります。死を以って訪れた別れは大変辛いですが、それと同時に苦しむ患者を楽にできたという安堵感に助けられる場合もあるかもしれません。
では、尊厳死から懸念されるデメリットとは、一体どのようなものになるのでしょうか。
①【患者の死期が早まる】
延命治療をやめてしまえば、当然のことですが死期が早まってしまいます。リビングウィルで取り決めた尊厳死は、後に患者の気が変われば覆せますが、その時点で既に延命治療が施せない状態になってしまっている可能性もあります。
②【ご親族間のトラブルが起きることもある】
例えリビングウィルに明記されていたとしても、延命治療を強く希望するご親族が現れることもあります。遠方に住むご親族に「なぜ医師は治療をしないのか?」という衝突が起き、ご親族間でのトラブルにつながるケースも少なくありません。
尊厳死は、非常にデリケートな問題です。人によって考え方や価値観が違う中、そのような意識のすれ違いを起こさないためにも、ご親族とも今後の方針について話し合っておかなくてはなりません。
ここからは、日本での尊厳死が、どのような位置づけになっているのかを見ていきましょう。
現段階で、日本国内の法律において、尊厳死は合法化されていません。したがって、尊厳死という言葉は、法的な単語ではありません。あくまで尊厳死は、患者やご家族、医師が話し合って個々に決めていくものでしかないのです。
令和3年3月24日には、「終末期における本人意思尊重を考える議員連盟」が開催されるなど、新たな法整備を試みる動きも出てきているようです。現時点でも、尊厳死について国会での論議は続いています。もしも、今後尊厳死が法的に認められれば、一般的な考えとして浸透していくかもしれません。
現在、全日本病院協会において、「終末期医療に関するガイドライン」が作成されています。
これは、人々が穏やかな終末期を過ごせるよう作成された文書であり、患者の意向を尊重して医療の提供を継続、または中止するための基準が記されています。この文書の目的は、あくまで患者が生活の質を保ちながら、穏やかで平穏な終末期を送るためのものです。
尊厳死や安楽死は、法的に認められている国が10ヵ国以上あります。積極的な安楽死が法で認められている国としては、オランダ・ルクセンブルク・ベルギー・カナダ・コロンビア・スペインなどが挙げられます。ただし、積極的な安楽死や自殺幇助を認めることで起きる弊害もあり、多くの国が禁じているのも事実です。
尊厳死を希望する場合まず行っておきたいことは、リビングウィル(尊厳死の宣言書)を作成しておくことです。リビングウィルに法的な効力はありませんが、提示することで9割以上の医師が延命措置をやめ、苦痛を和らげるケアに切り替えます。
ただし、リビングウィルは決して患者独断では作成せず、大切なご家族とよく話し合った上で作成しましょう。私的な文書として作成することも可能ですが、公的証書として公証人に文章案を作成してもらえば、より影響力の強い書類となります。なお、後に気が変われば、尊厳死の書類はいつでも撤回できます。
万が一の際に尊厳死を考えたとしても、ご家族の同意が得られない場合は、その希望が叶わないことがあります。また、大切なご家族の尊厳死を決断させられることも、精神的に大きな負担が掛かるものです。そのため、尊厳死については、ご家族の方と事前によく話し合っておくことが大切です。
尊厳死は非常にデリケートな問題であるため、国内での法律が定まっていません。したがって、希望通りに死の在り方を選べないことも少なくありません。この問題については、現在もさまざまな場所で議論が交わされ、正しい在り方の検討が進められています。
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