2023-09-15
箸渡し(はしわたし)とは、火葬場で行われる神聖な儀式で、古来より日本に伝わっている習わしです。一方で、小さいころ年配の方から「箸渡しをしてはいけません」と注意された覚えのある方も少なくないのではないでしょうか。
この記事では、いざという時の大切な儀式でありながら、日常ではマナー違反とされる箸渡しの意味や由来を解説します。マナー違反とされる理由や、儀式の詳細に至るまでを詳しくご紹介いたしますので、ぜひご一読ください。
火葬場でご遺体が火葬され、ご遺骨の状態になった故人様は、そのまま収骨室へ移されます。この場でご遺骨は、近親者の方々が箸から箸へと渡していきながら、丁寧に骨壺へと納められていきます。この一連の儀式が箸渡しです。
箸渡しは、「骨上げ」「骨拾い」とも呼ばれており、ご葬儀における日本に古くから伝わる大切な風習です。一つの骨片を二人の方が同時に箸でつまみ、骨壺へ納めるという一連の作業には、「故人様があの世へ向かうため」「無事に三途の川を渡れるように」という願いが込められています。
箸渡しは、同音である「箸」と「橋」を置き換えることで、この世からあの世への橋渡しをお手伝いしてあげたいという、故人様への気持ちが由来になっているといわれています。箸渡しは、故人様をご供養するための大切な儀式として、現在も日本に伝えられている尊い習わしなのです。
食事の時に、食べるものを箸から箸へ渡す行為はタブーとされています。それは、「箸から箸へ渡す」という作業は、あくまで死者に対してのみ許される行為であるためです。
近場に火葬場が立つなどの話が出れば多くの方が嫌悪感を抱き、霊柩車が通っただけで親指を隠す方が多数を占めることからも伺えるように、日本人の中には「死」を不浄なる穢れとして忌み嫌う文化が根強く残っています。
このような日本古来の思想は、やがて食事のマナーにも大きく影響するようになりました。箸から箸へ料理を受け渡す行為は、ご遺骨拾いを連想させる縁起の悪い所作として、「合わせ箸(あわせばし)」「忌み箸(いみばし)」「拾い箸(ひろいばし)」「禁じ箸(きんじばし)」とも呼ばれ、重大なマナー違反とされています。
食べ物を誰かに渡したい場合は、一度小皿に取り分けてから、相手に差し出すようにすると良いでしょう。
こちらでは、ご葬儀における箸渡しのマナーを詳しくご紹介いたします。
箸渡しは、最初に故人様と一番関わりの深い「配偶者」もしくは「喪主」から始め、血縁の濃い順番で行います。一般的な順番としては、喪主(配偶者)、故人様のご家族、ご親族の順です。
ご自身よりも関わりの深い方、または血縁の深い方でまだ箸渡しが済んでいない方がいる場合、先に箸を渡されたとしても、すぐに箸渡しを行ってはいけません。この場合は、関わりの深い方へ箸渡しを譲るようにするのがマナーです。
箸渡しは、不揃いの骨箸(こつばし)を用いることが一般的です。骨箸とは、箸渡し専用の箸のことで、多くは会場で用意されたものを使います。
骨箸は、一本一本で素材や長さの違うものが用意されることが多いです。これは「急な訃報に驚いて、きちんとした箸を用意できないほどに慌ててしまった」という意味が込められています。
このように、箸渡しについては細やかな考え方や方法があります。しかしながら、地方によって作法にさまざまな違いがありますので、不安のある方はあらかじめ葬儀社のスタッフに確認しておくと安心です。
ここでは、3種類の箸渡しを解説していきますので、ご参照ください。
広く一般的に行われている箸渡しは、二人が一組になって実施する方法です。各々で骨箸を用いたら、相手と同時に骨箸同士でご遺骨をつまみ上げ、丁寧に骨壺へ納めていきます。
この方法も二人一組ですが、作法が若干異なります。一人がご遺骨を骨箸で拾いあげ、もう一人がそのご遺骨を骨箸で受け取ってから、骨壺へ納めていくという方法です。
喪主を筆頭に、ご遺骨を囲むようにして、故人様と関わりの深い方から順に全員が並びます。先頭の方が骨箸でご遺骨を拾ったら、次の方が骨箸で受け取ります。このような形で、箸から箸へご遺骨を受け取っていき、最後にご遺骨を受け取った方が骨壺へ納める方法です。
以上のように、箸渡しの方法一つをとっても、地域や会場によってやり方はさまざまです。人生においては立ち会う機会の少ない儀式になるので、緊張する方も多いですが、基本的にはスタッフの指示に従うようにすることがマナーとされています。会場に従うことで間違いも起きにくいので、落ち着いて行うようにしましょう。
箸渡しをするにあたっては、守らなければいけない決まり事が存在します。注意点を心得ておくことで、いざという時に役立つ場合があるかもしれません。そこでここからは、箸渡しに関する注意点をご説明していきます。
故人様のご遺骨はかなりの量になりますので、全てを箸渡しで骨壺へ納めようとすれば、非常に時間がかかってしまいます。したがって、箸渡しで拾うご遺骨は重要な部分のみとなります。残ったご遺骨に関しては、会場のスタッフに拾骨を任せるのが一般的です。
箸渡しの際は、ご遺骨の部位を骨壺に納める時にも、定められた順序があります。故人様がご自身の足であの世へ歩いていけるようにとの願いを込め、足の部分から先に拾い始めます。なお、ご遺骨を納める順番は、足、腕、腰、背中、肋骨、歯、頭、最後に喉仏です。
喉仏は実際の軟骨とは異なり、背骨の第二頸椎の部分を指します。この形が、まるで仏様が座禅を組んでいるかのような形状のため、喉仏と表現されるようになりました。焼いた後でこの部分が綺麗に残ると、「無事に極楽浄土へ旅立てる」と信じられているため、最後に拾われるのが一般的となっています。
なお、ご遺骨を納める順番を守らないのは、マナー違反に当たります。順序を間違えないようにするためにも、スタッフの指示に従いながら箸渡しを行うことを心がけましょう。
箸渡しは、二人一組で行われることが一般的です。これは、「故人様の御霊が一人の方へ取り憑かないようにするため」「二人で故人様を失った悲しみを分かち合うため」という意味が込められています。
地域や会場によっては、男性と女性のペアを基本とする考えがあるようです。しかし、参列者の男女比率は必ずしも同一とは限らないため、同性同士のペアで箸渡しを行ったとしてもマナー違反には当たりません。なお男女で箸渡しを行う場合は、ご遺骨の左側に男性が立ち、右側には女性が立って、一緒に骨箸でご遺骨をつまむようにしましょう。
骨箸は通常で使う箸よりも長く、手元が狂いやすいです。二人でご遺骨をつまむのは難しく、時には途中で落としてしまうこともあるかもしれません。その場合は、慌てずに近くのスタッフの指示を仰げば問題ありません。
箸渡しが食事の席でご法度とされているのは、日常の生活で死への暗いイメージを連想したくないという日本人の考え方から起こったものです。しかしながら、火葬場で行う箸渡しは、故人様が平穏無事に三途の川を渡るための手助けともいえる大切な儀式です。
ご葬儀に参列する機会が訪れた際には、落ち着いた気持ちで箸渡しに立ち会い、心を込めてご遺骨を拾いましょう。
60年の歴史と実績のあるセレモニーのご葬儀専門ディレクターが監修。喪主様、ご葬家様目線、ご会葬者様目線から分かりやすくのご葬儀のマナー知識をお伝えします。
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