2023-09-07
大切なご家族が亡くなる瞬間は、残される方々にとって、非常に悲しく辛い時間です。しかしご遺族は、ただ別れを惜しんでばかりではいられません。なぜならば、故人様の平穏な旅立ちのため、さまざまな慣習に従って、速やかに弔いの準備を行う必要が出てくるためです。
ご遺族の行う儀式の一つに「末期の水(まつごのみず)」といわれる慣習があります。末期の水は、日本で古くから語り継がれている儀式です。そこで今回は、「死に水(しにみず)」ともいわれている末期の水について、その意義や由来、手順を詳しくご紹介いたします。
末期の水とは、故人様が亡くなった直後に執り行われる最初の儀式です。脱脂綿や樒(しきみ)、鳥の羽、新しい筆などに水を含ませて故人様の唇にあてがい、その口元を潤わせる行いを指します。
故人様の口元を湿らす行為は、「末期の水を取る」または「死に水を取る」と表現されることもあります。故人様の口を潤わせることで死の苦しみから解放し、安らかに旅立てるようにとの願いが込められているのです。
昨今において末期の水は、故人様が亡くなった後に行われることがほとんどです。昔のご葬儀では、故人様が亡くなる間際に行われていました。息のあるうちに水分で喉を潤すことで、死へ向かう辛さを軽減させたいといった思いや、命が甦るかもしれないという期待が込められていたようです。
また、水分が喉を通る際の喉仏の動きで、生死の確認を行う意味もあったようです。ただし、医療の発達に伴って儀式の流れが変化した現在では、医師による死亡宣告の後で、末期の水が行われることが一般的になりました。
末期の水の由来は諸説ありますが、中でも仏教の開祖である「お釈迦様」の死をきっかけとしたものが最も有力です。その昔、お釈迦様が自らの死を悟った時に喉の渇きを訴え、近くの弟子に水を持ってくるよう頼みました。ところが川の水が濁っていたため、すぐに水を用意できなかった弟子は困ってしまいます。
この状況を救ったのが、雪山に住まう鬼神でした。信仰心の厚い鬼神は、すぐに浄水を用意してお釈迦様に水分を捧げます。すると、お釈迦様は喉を潤し、安らかに旅立てたというのです。
この言い伝えから、「故人様の旅立ちの際には口渇で苦しまないように」との願いが込められ、末期の水が行われる慣習が根付いていきました。
末期の水はお釈迦様が起源とされているため、仏教に根ざした儀式だと思われがちですが、実は宗教の枠を超えて執り行われています。神道では、穢れを払う意味合いを込めて行われ、榊の葉先に水を浸したもので故人様の口元を湿らせるのが一般的です。
また、浄土真宗は仏教ですが、基本的に末期の水を取りません。亡くなった直後に「仏様の手だけで極楽浄土へ導かれるもの」という考え方があるため、故人様を人の手で救うといった概念がないのです。
キリスト教でも、末期の水は取りません。逝去は昇天を意味するため、代わりに聖体拝領(せいたいはいりょう)または聖餐式(せいさんしき)が行われます。これは、キリストの「最後の晩餐」が起因している食事会です。儀式では、キリストの御身を示すパンと、その血液を表す赤ワイン(または葡萄酒)をご遺体にお供えします。
末期の水は、病院や葬儀社の指示のもとで行うのが一般的ですが、儀式をスムーズに進めるためにも、大まかな流れは把握しておくことをおすすめします。
末期の水を取るにあたり、多くの場合は葬儀社で事前に必要なものが用意されています。しかし、用意がなかった場合でも、ご遺族側で準備できます。必要なものは、小皿または桶・未使用の割りばし・白い糸・水・脱脂綿・顔の水分を拭う布です。
水を含ませる脱脂綿の代わりに、樒・菊の葉・鳥の羽・新しい筆のいずれかが必要になることもあります。地域によって慣習が異なるため、具体的に何を用意するかは、事前に確認しておくと間違いがありません。
末期の水を取る順番にも、一般的に決まりがあります。最初は配偶者(喪主)、次に故人様の子ども、親、兄弟姉妹、孫、親族の順に、故人様と血縁の近い順番で行います。
子どもがまだ小さい場合は、無理に末期の水を取らせる必要はありません。もし子どもが希望する場合は、丁寧にやり方を教えてあげましょう。
まず、割りばしに脱脂綿を巻いて白い糸で結びます。次に、水を張った小皿もしくは桶を故人様の枕元へ置き、固定した脱脂綿を水に浸します。
湿った脱脂綿は、故人様の上唇の左から右へスライドさせるように優しく当て、下唇にも同じように当てていきます。水分としては、唇の表面が軽く濡れる程度で構いません。最後に、故人様を偲んで合掌します。
その場にいる全員が末期の水を取った後は、清潔な布で故人様の顔を清めます。湿らせて固く絞った布を額にあてがい、左から右へ優しくなでるように拭い、そして鼻から顎を意識して上から下に向かって拭いましょう。
故人様のお顔を拭いている間は、「今までありがとうございました。」「お疲れさまでした。」など、思い思いのねぎらいの言葉をかけてあげましょう。
故人様と最後のお別れになる「末期の水」は、故人様に対するご遺族の優しい気持ちが込められた儀式です。その意義や由来を知れば知るほど、奥深い意味を持つしきたりであることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
中には末期の水を行わない宗教や宗派もありますが、故人様を尊び、旅立ちのサポートを望む気持ちは共通しています。どの儀式であっても、故人様の死を悼み敬う気持ちは、忘れないようにして臨みたいものです。
60年の歴史と実績のあるセレモニーのご葬儀専門ディレクターが監修。喪主様、ご葬家様目線、ご会葬者様目線から分かりやすくのご葬儀のマナー知識をお伝えします。
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