2020-04-24
ご葬儀の際に身に着ける喪服。喪服といえば「黒」をイメージされる方が多いと思いますが、喪服が「白」の時期があったということをご存じでしょうか。一体どのような流れで喪服の色が現在の黒になったのか。そもそも、喪服はいつ頃から着られるようになったのか。
そこで今回は、喪服の歴史と色の変遷についてご紹介します。
2012(平成24)年に亡くなられた歌舞伎俳優 18代目中村勘三郎さんのご葬儀では、奥様の好江さんが白い喪服を着用していたため、ご葬儀の模様を当時のニュースなどでご覧になられた方の中には驚かれた方も多かったと思います。
日本の歴史において喪服が初めて登場したのは、奈良時代と言われています。日本最古の歴史書である「日本書紀」によれば、当時の日本のご葬儀では、故人様の親族や会葬者は白い喪服を着用することが通例だったとされています。なお、庶民の喪服は、その後千年以上にわたって、白い喪服が主流となりました。
では、上流階級の人たちはどうだったかというと、当初は、庶民と同じく白い喪服を着用していました。しかし、718(養老2)年の「養老喪葬令」において、天皇が「錫紵(しゃくじょ)」と呼ばれる薄墨色の麻の細布衣を喪服として着用するようになったのをきっかけに、上流階級の人たちにも薄墨色の喪服が広まりました。そして、時が経つにつれて墨染めの色は濃くなっていき、平安後期になると黒色の喪服が着られるようになりました。しかし、貴族の影響力が薄れた室町時代に再び白の喪服が主流になりました。
このように、日本の歴史において喪服は、庶民が白、上流階級が時として白や黒を繰り返していったのです。
白い喪服の伝統が変わり始めたきっかけが明治維新でした。
1878(明治11)年に、「維新の三傑」の1人で、現代でいうところの首相にあたる、初代内務卿を務めた大久保利通が暗殺されます。その大久保利通のご葬儀は、多くの諸外国の国賓から注目されました。それを考慮した政府から、「会葬者は喪服を黒で統一するように」とのお達しがありました。
また、1897(明治30)年の皇室のご葬儀に列席した欧米諸国の賓客たちが、ヨーロッパ王室式の黒い喪服を揃って着用していたのを見た政府首脳部は、日本人の会葬者にも黒い喪服をしつらえさせました。
これらをきっかけとして、上流階級の人々の間で、黒を国際標準の喪服の色として認識する気風が広まり、1915(大正4)年の皇室令により、宮中参内の喪服は、帯締め・帯揚げ・足袋は白で、それ以外は黒を着用することが正式に定められました。
しかし、この時点ではまだまだ庶民には、黒の喪服は縁遠いものでした。
庶民に黒の喪服が広がったきっかけとなったのが、第二次世界大戦でした。
当時の喪服は、貸衣装を着用することが一般的で、貸衣装屋には白と黒の喪服が混在していました。第二次世界大戦によって日本中に戦死者が急増し、貸衣装屋で喪服を借りる人も急増しますが、借りる頻度が増えたことで白い喪服は汚れが目立ち、直ぐに使い物にならなくなってしまいました。そこで、貸衣装屋は、汚れが目立たず手入れのしやすい黒の喪服を揃えるようになりました。その後、手入れのしやすさや喪服を黒に統一している欧米諸国の影響もあり、急速に黒い喪服が庶民にも広まっていきました。
また、冠婚葬祭のマナー意識も、第二次世界大戦をきっかけに大きな変化がありました。
戦前では、喪服を着用するのは遺族だけでよいと考えられていました。しかし、戦後、ご葬儀自体が社会的に大切な通過儀礼として認知され、冠婚葬祭のマナーを身に付けようとする意識が急速に人々に浸透し、ご遺族だけでなく会葬者もマナーとして黒の喪服を着用する考えが広まって行ったのです。
私たちが普段当たり前のように着用している黒い喪服は、奈良時代から近現代までの長い時間をかけて辿り着いたスタイルだということが分かりました。庶民に黒い喪服が定着したのが比較的近年であり、多くの戦死者を生んだ戦争がきっかけだということが分かりました。
時代により、白と黒を移行してきた喪服ですが、亡くなった方の死を悼むという点だけは、古代から変わらず受け継いでいるということにも注目したいですね。
60年の歴史と実績のあるセレモニーのご葬儀専門ディレクターが監修。喪主様、ご葬家様目線、ご会葬者様目線から分かりやすくのご葬儀のマナー知識をお伝えします。
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