2024-12-27
一部の地域において行われるご葬儀では、参列者に「長寿銭」と書かれたのし袋が配られることがあります。中には、「ご葬儀なのになぜ紅白ののし袋が渡されるのだろう」と途惑ってしまう方もいらっしゃるかもしれません。長寿銭は、故人様の長寿にあやかるための縁起物としてご遺族が配る小銭であり、のし袋も紅白のものが用いられます。
そこで今回は、長寿銭についての意味合いや金額、どの小銭にどのような意味が込められているか、長寿銭の使い方についても解説いたします。
長寿銭(ちょうじゅぜに/ちょうじゅせん)とは、故人様がご高齢で亡くなられた際に、ご葬儀で配られる小銭です。長寿銭は、全国的に広く行われている風習ではないため、多くの方には知られていません。しかしながら、長寿銭を知る地域の方々にとっては、当たり前のように根付いている慣習なのです。
長寿銭は、主に埼玉や群馬などの北関東、千葉県、静岡県の一部などで行われています。地域によって呼び方が「ちょうじゅぜに」や「ちょうじゅせん」と変わるのも特徴の一つです。
ご葬儀ではご遺族に哀悼の意を表して、香典をお渡しします。その際は、白黒の水引がデザインされたのし袋に入れて渡すのが通例です。一方の長寿銭は、ご遺族から参列者の方々に向けて、紅白の祝儀袋に入れた小銭を縁起物としてお渡しします。
長寿銭には、「お陰様で寿命を見事に全うでき、大往生でした」「参列者の方々も、故人様と同様に長生きできますように」など、ご遺族の前向きな想いが込められています。
ご葬儀で長寿銭が配られる目安の年齢は、故人様が80歳以上で亡くなった場合とされています。ただし、はっきりとした年齢の決まりはありません。参考までに、一番多く長寿銭が用意される故人様の年齢は米寿の88歳、もしくは90歳以上です。いずれの場合であっても、長寿銭を配るかどうかはご遺族の判断に委ねられます。
祝儀袋に入れる長寿銭は、原則硬貨1枚であり、どの硬貨を用いるのかは決められていません。硬貨にはそれぞれ異なった意味がありますので、好きな意味合いを持つ硬貨をご用意するのも良いでしょう。ただし、参列者の方が多い場合は、無理のない範囲の金額で用意します。
長寿銭に用いる硬貨は、一般的には5円、50円、100円が多いようです。ここでは、それぞれの硬貨が持つ意味合いについてご紹介いたします。
5円玉は、長寿にご縁(5円)がありますようにといった意味合いが込められています。図柄に示されている稲穂は、故人様の「謙虚さ」を表しています。長寿銭として5円玉を授かった場合は、紅白の紐を通し縁起物として他の硬貨と区別し、大切に保管しておくと良いでしょう。
10円玉は、故人様が十分に生きた証であり、「参列者の方々も十分長生きしますように」といった願いが込められています。また、10円玉には常緑樹の常磐木(ときわぎ)が描かれており、緑の葉を一年中絶やさないことから「永久」の意味を示しているともいわれています。
50円玉は、5円・10円の2つ分の意味が該当します。つまり「長寿を全うできますように」「十分なご縁がありますように」といった意味が込められているのです。描かれている菊には「厄除け」、そして「延命長寿」のご利益があるとされています。
100円玉には、「100個のご縁がありますように」「100歳まで生きられました」という願いや祝いの気持ちが込められています。なお、刻まれている桜には、フランスの花言葉で「私を忘れないで」といった意味が込められています。
500円玉は、硬貨の中でもっとも大きい価値を持っています。そのため、語呂合わせで「最大の効果(硬貨)」が期待できる縁起物とされ、重宝されているのです。刻まれているのは橘(たちばな)という植物で、「不老不死」のご利益があるとされています。
長寿銭は、ご葬儀という格式高い儀式の場で、ご遺族から参列者に向けて渡される小銭です。その際、「縁起でもない」と誤った意味でとらえてしまう方も少なくありません。しかしながら、長寿銭は故人様が長生きされたことにあやかる縁起物ですので、以下のように活用されるのが良いでしょう。
・お守りとして小さな袋にしのばせ、長寿や幸福を願いながら鞄やお財布に入れて持ち歩く
・身近な高齢の方に「さらに長生きできますように」といった願いを込めながらお渡しする
・大切な方へ「いつまでも元気でいられますように」といった意味を込めてお渡しする
・ある程度の金額を貯め、先方の幸せを祈りながら被災地などへ寄付して役立ててもらう
・神社仏閣にお参りする際のお賽銭として活用する
・紅白の紐で飾りつけるなどして、仏壇に飾っておく
・神棚に祀っておく
実際のところ、長寿銭は受け取った方の自由に使用して構わないとされています。上記でご紹介した使用方法は、あくまで長寿銭を縁起物としてとらえた場合の提案の一つにすぎません。袋から取り出したら、日常のお買い物などですぐに使っても問題ありません。
ここからは、長寿銭をどのような形で配れば良いかを解説していきます。
長寿銭は、のし袋に入れてお渡しします。柄は無地ではなく、赤と白の水引がプリントされたものを選ぶのが一般的ですが、小さな紅白の水引・のしが付いたものでも構いません。
袋の大きさに決まりはありませんが、中に入れるのは硬貨1枚のみであるため、のし袋も小さめのものを選ぶと良いでしょう。また、ポチ袋を使用する方もいらっしゃるようです。
のし袋の表書きには、水引の上中央に「長寿銭」と記載します。半分から下には、故人様の氏名と年齢を書き添えましょう。年齢を書く際は、数え年と満年齢のどちらでも構いません。
長寿銭は、ご葬儀でお渡しされるものではあるものの、参列者の方々の長寿を祈るための縁起物です。そのため、大切に扱うよう心掛け、袋に入ったまま放置するといった粗雑な扱いはしないよう気を付けましょう。受け取った長寿銭は、すぐに使ってしまっても問題はありませんが、せっかくのお守りですのでご自身の運気上昇や長寿を願って持ち歩いたり、人のために役立てたりすると良いでしょう。
長寿銭は、一部の地域でしか行われることのない風習であり、全国的に広く知られているものではありません。どこかでご縁がつながったときには、ぜひ本記事をお役立ていただければ幸いに存じます。
60年の歴史と実績のあるセレモニーのご葬儀専門ディレクターが監修。喪主様、ご葬家様目線、ご会葬者様目線から分かりやすくのご葬儀のマナー知識をお伝えします。