2023-10-13
南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)とは、僧侶が唱える念仏であり、この名の通り「仏様を念じる」という行いです。「仏様を念じる」とはすなわち、仏様を憶念し、その名を声にして崇める行為を指し、宗派によっては題目(だいもく)、宝号(ほうごう)と表現されることもあります。
念仏は宗教によって意味合いが異なりますが、この記事では主に真言宗で唱えられている「南無大師遍照金剛」の詳しい意味についてご紹介いたします。また、真言宗で執り行われるご葬儀の流れ、気を付けなければならないマナーも合わせて解説しますので、ぜひご一読ください。
南無大師遍照金剛とは、「真言宗の開祖様である、空海(くうかい)様に帰依します」との決意を表した言葉です。
空海は、平安時代に実在した僧の一人で真言宗の開祖として知られます。奈良時代から平安時代初期の日本朝廷は、中国の唐(とう)の文化や技術を学ばせるために、数百人の遣唐使を派遣し、その中にいた一人が空海です。
空海は唐で密教(みっきょう)を学んだ後、日本へ帰国しました。そして大宰府の寺院を経て、京都の高雄山寺(神守寺)に入ると、天皇の書を受けて「真言宗」を開くのです。こうして空海は布教活動に力を注ぎます。
その数年後、弘仁7年(西暦816年)に空海は、和歌山県伊都郡高野町高野山に「高野山金剛峯寺(こうやさんこんごうぶじ)」を創建しました。こうして、真言宗の総本山が誕生したのです。
並々ならぬ修行と努力を重ねてきた空海は、その功績が認められ、死後に「弘法大師(こうぼうだいし)」という送り名が与えられました。こうして真言宗では、弘法大師空海を崇めるための念仏「南無大師遍照金剛」が唱えられるようになったのです。
南無(なむ)は仏に対する絶対的な信仰心、大師(たいし)は偉大なる菩薩(ぼさつ)様や仏様への敬称を表します。さらに、遍照金剛(へんじょうこんごう)とは、空海が唐で修業を積み密教を極めた際、恵果和尚(けいかかしょう)から名付けられた灌頂名(かんじょうめい)です。つまり、遍照金剛とは、弘法大師空海そのものを表しているのです。
また真言宗では、遍照金剛が大日如来(だいにちにょらい)の別名であると伝えられてきました。大日如来様は、真言宗における最高位の仏様です。すなわち、大日如来を示す遍照金剛を念仏で崇めることは、真言宗への深い信仰心を示すことになります。
空海は、弘仁6年(西暦815年)に四国八十八箇所(しこくはちじゅうはっかしょ)を開設したと伝えられています。かつて、空海が修行を重ねた四国の地では、修行僧が中心になって巡礼をする遍路(へんろ)が行われるようになりました。その後、日本各地から深い信仰心を持った方々が次々と四国八十八箇所を訪れ、現代においても信仰深い方々による巡礼は続いています。
また、霊場を巡る方々は「お遍路さん」と呼ばれており、南無大師遍照金剛と書かれた白衣を着用しています。お遍路さんが各所を巡る際は、南無大師遍照金剛を唱えます。この行為には「大日如来様を信仰し共に巡礼を行います」との意味が込められているのです。
真言宗とは、大日如来様をご本尊とした仏教です。真言宗には、即身成仏(そくしんじょうぶつ)の教えがあります。 即身成仏とは、「教えを極めることで、今生のうちに成仏を達成する」との意味が込められており、現世のうちに大日如来様と結合すれば、誰でも仏になれると信じられています。
真言宗では、大日如来様との一体化を目指します。そのためにも、深い信仰心と修行が大切な行いになります。
真言宗は、空海が唐で学んだとされる密教が由来です。顕教(けんぎょう)のように、万人へ全てを伝える宗派とは異なる密教は、修行を受けた者だけが師匠からその内容を授かります。
真言宗で行われるご葬儀も、その内容には特徴がみられます。それは、ご葬儀の内容に土砂加持(どしゃかじ)や、灌頂(かんじょう)と呼ばれる儀式が盛り込まれることです。
土砂加持では、清水で清めた土砂を用いて、光明真言(こうみょうしんごん)を唱えながら護摩焚きを行います。また、土砂加持で使用された土砂は納棺前のご遺体へかけられますが、この行いは滅罪生善(めつざいしょうぜん)と呼ばれ、故人様が生前に重ねた罪を消し去ると考えられているのです。
また、灌頂とは故人様の御霊が仏の位へ入るために行う儀式のことであり、故人様の頭部から水を流す行為を指します。
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真言宗のご葬儀は、3種類の宗派に別れますが、こちらでは一般的な順序を記載します。ご葬儀の流れを理解すればマナー違反を避けられますので、事前に詳しい宗派を確認しておくと良いでしょう。
①僧侶が身を清めるために、塗香(ずこう)、洒水(しゃすい)、加持香水(かじこうずい)の法を行います。
②僧侶は三礼(さんらい)、表白(ひょうびゃく)、神分(じんぶん)を行い、仏への感謝と故人様の成仏を願います。
③僧侶は、偈文(げもん)を唱えて故人様の髪を剃り(また剃る素振り)、故人様へ戒名を与える授戒(じゅかい)を行います。
④さらに僧侶が行うのが、表白(ひょうびゃく)、神分(じんぶん)、引導の印明(いんどうのいんみょう)です。この儀式で、故人様の即身成仏が果たされます。
⑤次に行うのが僧侶による墓前作法です。故人様の中に存在する地獄を取り除く「印明」、そして真言宗の血脈授与が行われます。
⑥僧侶が諷誦文(ふじゅもん)を唱えている間に焼香が行われます。全ての方の焼香が終了すると、僧侶は弘法大師空海から伝わる印である導師最極秘印(どうしさいごくひいん)を結び、ご葬儀を終了させます。
⑦最後、故人様にお別れをしてから出棺します。
焼香の作法は宗派によって異なります。真言宗のご葬儀では、右手3本の指(親指、人差し指、中指)で抹香をつまみ、額へ押しいただいてから香炉へくべる動作を3回繰り返します。なお、会葬者が大勢いる場合は、会場の担当者から「焼香は一度に」との指示を受けることがあるかもしれません。その様な場合は、従うようにするのが礼儀です。
真言宗のご葬儀でご遺族が使用する数珠は、108個の石が連なった「振分数珠(ふりわけじゅず)」です。振分数珠は真言宗の正式な数珠に当たり、お遍路さんが用いている数珠としても有名ですが、日蓮宗以外の宗派のご葬儀にも使える万能な数珠でもあります。なお参列する場合は、略式の数珠で問題ありません。
遍照金剛とは、真言宗の開祖である空海(弘法大師)の灌頂名でした。そこへ南無大師を付けることで、「弘法大師様(大日如来様)の力を信じて従う」という、尊い敬意を込めた言葉になります。
このように、念仏一つを取り上げても、その背景には深い意味が込められています。ご葬儀でこの念仏を耳にした際は、開祖様の存在を思い浮かべながら耳を傾けてみましょう。その言葉を理解し、ありがたみを感じられれば、故人様の御霊を委ねるための大きな安心感を得られるかもしれません。
60年の歴史と実績のあるセレモニーのご葬儀専門ディレクターが監修。喪主様、ご葬家様目線、ご会葬者様目線から分かりやすくのご葬儀のマナー知識をお伝えします。
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