2023-09-01
樒とは常緑性小高木(じょうりょくしょうこうぼく)の一種です。お墓や仏壇、ご葬儀の祭壇へ飾られていることの多い樒ですが、地域によっては「しきび」と呼ばれることもあります。
当記事では、この樒が重要な仏事に、なぜ多く用いられるようになったのかを解説していきます。また、その歴史や役割についても併せてご紹介しますので、今後の式事における知識の一部としてお役立てください。
常緑性小高木の「樒」とは、肉厚の艶やかな葉を持ち、黄白色の小さな花を付ける特徴を持つ植物です。一年を通して青々とした葉を茂らせていることから、「四季美」とも表現されることがあり、季節に関係なく、その葉を束ねて仏事に添えられる植物として重宝されています。
ただし、樒には根っこから茎、葉に至るまで全てに猛毒(アニサチン)が含まれています。中でも、果実や種には最も多くの毒が含まれており、非常に危険です。食べてしまうと嘔吐や下痢、意識障害などの中毒症状を起こすほか、死に至るケースもありますので、お子様が誤って口にすることのないよう注意しなくてはなりません。
また、樒には独特な香りがあり、抹香として使用されることも一つの特徴として挙げられます。したがって、強い毒や香りを持つ樒は「故人様を悪霊から救い、邪気を払ってくれる植物」と考えられ、仏事に用いられるだけでなく、悪霊払いの道具としても用いられてきました。
樒はフラワーショップで比較的簡単に入手できますが、違う用途の榊とそっくりなので、購入するときは間違えないように注意しましょう。
樒も榊も、常緑小高木です。それぞれ葉をまとめ、紐で縛って作られたものが多く、見た目がそっくりなため混同して覚えている方も多いでしょう。しかしながら、先ほども述べた通り、樒と榊は全くの別の植物です。
樒は、主に仏事で用いられます。一方、榊は新道で敬われる高木であり、神様が宿るための依り代ともされています。そのため、榊が使用されるのは主に神事の儀式(玉串奉奠)です。したがって、樒と榊を混同しないように注意することが必要です。
なお、見分けるための細かな特徴は、以下をご参照ください。
・樒(仏事)
香りが強い、柔らかく肉厚で波打った形の葉が、密集して生えている
・榊(神事)
香りは無臭、葉は固めで薄く平たい形、枝に対して左右対称に付いている
傷を付けることで強い香りを発する樒は、ご遺体が発する臭いを緩和する効果があるため、古来より通夜やご葬儀の場にふさわしいとされてきました。ご遺体の腐敗を遅らせる技術に乏しかった時代では、虫を寄せ付けない樒の強い香りが重宝されていたようです。さまざまな技術が発達した現代でも、その名残りとして樒が用いられ続けています。
また、樒は非常に丈夫なため、毎日お水を換える程度の簡単なお手入れで、非常に長持ちしてくれます。枯れにくい樒は、忙しい仏事において役立つ存在です。
樒は、仏教と深い縁で繋がっている植物と言われており、ご葬儀で祭壇へ飾られたり、お墓や仏壇に供えたりするのが一般的です。
仏教では、現世に存在していない青蓮華(しょうれんげ)という花が「仏様の青眼」に例えられています。青蓮華は、仏様のいらっしゃるあの世に咲く花です。実は、この青蓮華と樒がよく似ているため、仏教において樒が尊ばれるようになり、ご葬儀へ用いられる由来の一つとなりました。
また、ご遺体の腐敗臭をもしのぐ強い香りは、「故人様の御霊を浄化する力と悪霊から守護する力を持つ」との考え方が語り継がれており、樒が仏事で使用される理由の一つとなっています。
樒は、徳の高い僧侶である鑑真(がんじん)が、中国の唐から日本へ持ち込んだという歴史があります。現代においても、仏教での樒は「鑑真が広めた尊い植物」として崇められ、仏事における代表的な植物といった位置づけになりました。
樒は、具体的にどの様な場所へ供えられるのでしょうか。例えば近畿地方でよく見かけるのが、ご葬儀会場の入口へ飾られている樒です。また、地域や宗教によって飾り方はさまざまですが、祭壇には供花と共に、または供花の代わりに樒を飾るといった光景も見られます。さらに、ご臨終から納棺時にかけて、樒が使用されることも多いです。「末期の水」で行う儀式の際や、納棺時、そして枕飾りにもよく用いられます。
樒は仏式のご葬儀でよく見られる植物ですが、仏教と深い関わりがあり、そこには大切な意味や歴史が存在しているとご理解いただけたことと思います。ただし、ご葬儀を執り行う際には、地域や宗派によってさまざまな考え方や取り決めがあります。樒を取り入れる際には、寺院や地域への確認も併せて行うと良いでしょう。
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